大久保の街から
撮影:大久保駅近郊
空が好きらしい。
昔、と言っても12年くらい前、まだ大学生のころ、この近くの怪しい広告(競馬予想とか風俗とか)ばかり扱う会社でバイトしていた。まだ、携帯も、パソコンも所有していない時代で、あの頃は、時間がたっぷりとあり、私の前には無駄な時間ばかりが転がっていて、無かったのは金だけだった。でもそれはそれで苦でもなく楽しかったし、暇があれば大久保のひなびた喫茶店で「重力の虹」とか「ムーンパレス」とか読んでいたり、音楽聴いていたりして、だいたい、いつも一人でいたので周りも時間もあまり気にしていなかった。要はろくでなしであった。
大久保の街の空気は混沌としていて猥雑であった。そしてそれがすごく心地よかった。
あれから12年たった今、携帯もパソコンもあり、時間は限られている。「重力の虹」なんて読む時間すらない。相変わらず金はあまりないが、以前よりはましだし、さらには、いかに効率的にデータ収集するかとか、効率的なプロモーションのシステム化とか、以前の私なら毛嫌いしそうな話を平気でこの近くのお客さんの会社でしている。そして妙に周りと時間を気にしている。
今大久保の街は混沌とか猥雑とがずいぶん姿を消し清潔感を持っている。
私個人も街も私的なカオスを排除しつつある。僕らは純粋化しようとしているのだろうか。純粋化には危険な香りさえ感じる。
私は自分の人生の過去のどの地点にも戻ろうとはけして思わないが、たまに思い返すのも悪くない。無関心に今を生きる自分はたまに否定する必要がある。
12時を回ると太陽は空の一番高い所にある、私は東京の午後が持つ独特な喧噪に飲み込まれながら大久保駅近くのパスタの美味いトラットリアで一人食事をしている、そんな場所でそんな時そんな事考え、そして複雑な気持ちになった。午後、空はどこまでも遠く雲はなだらかだ。今でも愛してるぜ大久保。
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